昔からタイの各地には、ワニ(シャムワニクロコダイル)が生息しています。ですから、川に関する物語が描かれるタイの民話には、よくワニが登場してきます。
もちろんタイでも、ワニは水中の恐ろしい動物であり、説話・物語などでは怖いものとして扱われていますが、なぜか親しみを感じられるエピソードがあったので、今回この記事でご紹介したいと思います。
タイ ピシット県にまつわる伝説
この民話は、タイ北部にあるピシット県での、ワニ王チャワランと英雄クライトーンにまつわるお話です。
伝えられているエピソードによると、チャラワンは、美しく不可思議な力が宿る洞窟に、2匹の美しい妻(ワニ)と、他のワニ達と住んでいました。すべてのワニ達は洞窟にいる間、人間の姿に変身することができました。
ワニ王であるチャラワンは、とても獰猛で、常に人間を捕食する欲望に駆られていました。先祖であるこれまでのワニ王は、仏教の教えに従い、人間を捕食することをしませんでしたが、チャラワンはお構いなしに人間を捕食していました。
ですから付近に住む人間は、ワニが人間を狩るという噂が流れ、川付近に行くことを恐れていました。もちろん人間の親は、子供たちに洞窟はもちろんのこと、川付近で遊ぶことを禁止していました。しかし、子供たちは川で遊びたい気持ちを抑えることができませんでした。
ある日、川ではちょうど、ピシット国王の娘、タパオゲーオとタパオトーンの二人が水遊びをしているところでした。もちろん国王は、川での遊びを禁止していましたが、国王の娘の強い要望ということもあり、家来達はそれを断ることが出来ませんでした。
チャラワン、人間に恋をする
そこに、人間を狩りに出かけていたチャラワンが現れました。タパオトーンを見たチャラワンは、捕食したい気持ちよりも、彼女の美しさに見とれ、恋をしました。
巨大なワニ、チャラワンを見た家来たちは何もすることができず、タパオトーンはさらわれてしまいました。
タパオトーンを洞窟に連れ帰ったチャラワンは、人間の姿になり、求婚しましたが、全く関心を持ってもらえませんでしたが、強引に彼女を自分の3番目の妻とすることにしました。
娘がさらわれたことを知ったピシット国王は取り乱し、愛する娘は殺されたに違いないと思いましたが、せめて亡骸だけでも取り戻したいと考え、娘を殺したワニを退治する勇敢なハンターを募りました。
そして多くのワニハンターが挑戦しましたが、誰も上手くいきませんでした。
ハンター、クライトーンの登場
そんな噂は、他県ノンタブリーにまで行き渡り、ワニハンターであるクライトーンの耳にまで届くことになりました。クライトーンは、約1週間かけピシット県に到着し、闘いに備える準備を整えました。
クライトーンは、チャラワンが洞窟から出てくるようにおまじないをかけ、ついに対峙し闘うことになりました。死闘の結果、チャラワンは重傷を負い、洞窟に逃げ込みましたが、クライトーンは見失うことなく、洞窟でとどめを刺しました。
娘タパオトーンの生還
チャラワンを退治した後、無事タパオトーンは救出され、生還しました。死んだと思っていた娘が、生きて帰ってきたことで、国王、そして家族は大変喜びました。
娘を救出したクライトーンは、一生暮らしていけるほどの褒美を与えられました。そして、この出来事以降ワニ達は、人間狩りをすることを一切止めました。
語り継がれるエピソードに
この民話は、チャクリー王朝第2代のシャム国王ラーマ2世(プッタルートラーナパーライ)のお気に入りとなり、タイ演劇にまで昇華されました。
その他にも、タイのクラフトビールのブランド名として「チャラワン」が起用されており、今でもワニ王チャラワンという名が語り継がれています。
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